ご家族がご入居中の方に対して「もっと快適に過ごしてほしい」「好きなことをさせてあげたい」と願うのは当然のことです。
しかし、介護施設の現場では、ご家族からのご要望に対して お断りせざるを得ないケース も少なくありません。
今回は代表的なご要望2項目を取り上げ、なぜ施設側が「難しい」と判断するのかを解説します。
1. 入浴回数を増やしてほしいというご要望
・「週2回」が基本の背景
多くの特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設では、入浴回数の基準は「週2回以上」が一般的です。
入浴回数を週3回以上にしている施設もありますが、それは 設備・人員・介助体制に余力がある例外的なケース です。
・なぜ「毎日/増回数」が難しいのか
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浴室・設備の数に限りがある
施設のお風呂には、寝たままで入る特殊浴槽、車椅子対応の機械浴槽、一般浴槽など多様な設備が必要です。どの浴槽も1名ずつの利用が基本で、物理的に「順番待ち」が発生します。 -
介助職員の人員に制限がある
入浴介助には必ず職員が付き添います。ひとりの入浴に時間も人員もかかるため、簡単に回数を増やせるわけではありません。 -
入浴には“掃除・消毒”までがセット
利用後には浴槽の洗浄・消毒が必須です。入浴そのものだけでなく、その後のクリーニング作業も負担となります。 -
高齢者の皮膚・体力面から医学的配慮も
高齢者は皮膚が乾燥しやすく、水分・皮脂が失われやすいため、頻繁な入浴がかえって皮膚トラブルを起こすリスクがあります。
・ご家族へのお願いポイント
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ご家族の「できるだけ清潔にしてあげたい」というお気持ちはとても大切です。
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ただし、入浴回数には 設備・人員・医学的背景 から制限があることをご理解ください。
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入浴だけではなく「清拭(体を拭くケア)」「シャワーのみ」「個室浴」など代替手段がないか、施設職員と相談することが有効です。
2. 食べ物の差し入れ
・ご家族の想い:好きなものを食べてほしい
入居後に「せっかくだから好きな食べ物を差し入れたい」「家族の手作りを喜ばせたい」というお気持ちは、非常に自然で温かいものです。
しかし、施設側では慎重に判断せざるを得ない場面が多く見られます。
・差し入れが難しい主な理由
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誤嚥・嚥下機能低下のリスク
高齢になると飲み込む力が弱くなり、食べ物が詰まりやすくなります。ご家族が「好きだから」と渡した食べ物が、誤嚥事故につながる可能性があります。 -
衛生管理/食品安全の問題
刺身・寿司・生卵・手作り料理など“生もの”には食中毒リスクがあります。施設で預かる管理体制が整っていない場合、断られるケースも。 -
公平性・他入居者とのバランス
全入居者が同じメニューを食べている中で、特定の入居者だけが差し入れを食べていると「なぜ自分だけ違うのか」「うらやましい」という不公平感を生む可能性があります。 -
栄養管理・医療制限との整合性
施設では入居者の栄養状態や持病・制限食を考慮した食事管理が行われています。ご家族の差し入れがその設計を乱すこともあります。
・差し入れをする際の注意点
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まず 施設職員に“差し入れ可否・条件”を確認する。
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嚥下状態や持病、アレルギーを考慮し、 誤嚥リスクのある食品は避ける。
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生もの・開封済み・賞味期限ギリギリのものは原則控える。
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可能なら「少量・おやつ程度」で渡し、部屋で食べてもらうよう案内されることが多いです。
3. 「これはわがまま?」ではなく「理解を深める機会」へ
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入浴回数に制限があるのは、浴室・人員・清掃・医学的配慮という裏付けがあります。
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食べ物の差し入れが難しいのは、誤嚥・衛生・公平性・栄養管理という観点からです。
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ご家族の善意と “大切な方のために”という気持ちは何より尊重されるべきですが、施設のルール・体制を尊重することも、入居者本人の安心・快適な暮らしにつながります。
「もしかしてこれはわがままかな?」とご家族が感じたときは、まず 施設への確認・相談 をおすすめします。正しい知識を持ち、ご家族と施設が協力し合うことで、大切な方の生活はさらに安心で豊かなものになるはずです。